2015年12月06日

2020年東京の都市ストックと不動産市場

明海大学不動産学シンポジウム

好調を維持しつつも、2017年の消費税増税や2020年のオリンピック後に対する不安の声も聞かれるようになってきた不動産市場。今後を考えるためのヒントを求め、11月2日に開催された明海大学不動産学部主催(共催 独立行政法人住宅金融支援機構、一般財団法人日本不動産研究所)のシンポジウム「2020年東京の都市ストックと不動産市場」に参加してきました。

まずは基調講演では、住宅金融支援機構 海外調査担当部長の小林正宏氏が、不動産市況にも大きな影響を与える日米欧の金融環境について現状と今後の展望を説明されました。現状については日米欧の中銀による大規模な金融緩和が現在の好調な不動産市況をもたらしていると指摘した上で、今後の着目点、注意点として、米国FRBが日欧中銀に先駆けて利上げを実施しようとしていることに加え、少子高齢化が不動産実需や貯蓄率の減少をもたらしていることを挙げました。貯蓄率については、今まで金融機関に集まった潤沢な貯蓄が国債投資に投じられることで低金利の実現・維持に繋がってきた面があるだけに、今後金利に与える長期的な影響が気になるところです。
続いてUR都市機構 東日本都市再生本部 都心業務部長の里見達也氏は、同機構が東京で進めている再開発事業、インフラ整備事業を取り上げ、これらが国際的な都市競争の中で東京の魅力を高め、国際的なビジネス拠点、観光拠点としてプレゼンスを高めることに繋がるとの見方を示しました。

パネリスト報告では各研究者の方々がそれぞれの専門の観点から東京の不動産について分析した結果を披露されました。 その中で特にREITにより関わってくるであろうものとしては、日本不動産研究所の金東煥氏による「不動産投資市場における東京から地方への地域間波及効果」が挙げられます。
当該報告は、東京や名古屋、大阪、福岡の地価の変動に関連性があるのかを統計学や資料経済学の手法を用いて分析したものです。それによると、地価はまず東京から動き出した後で名古屋、大阪、福岡に波及し、さらに福岡だけは東京から影響を受けて地価が動いた後、それを跳ね返す形で東京の地価に影響を与える特徴を有しているということでした。最近各種ニュースでREITや海外投資家が地方の不動産にも物色や購入の手を広げていることが報じられていますが、そうした投資家の動きが裏付けられた形です。
また名古屋、大阪、福岡の地価が東京の地価に連動する傾向が年々強まっていることも当該報告で指摘されました。これは東京とそれ以外の地域の不動産に分散投資をした場合のリスク分散効果が年々弱まっていることを示しています。地域特化型REIT、或いは投資地域分散によるリスク分散を謳ったREITへの投資を検討する際には考慮すべき要素だと思われます。

シンポジウム全体を通してみると、どの講演や報告でも取り上げられたのが「少子高齢化」の進展とそれに伴う人口減少でした。現役世代が減っていき、不動産需要やインフラ整備の原資となる税収が自然と拡大することは望めないことは大きな不安材料ですが、既存の都市インフラや住宅ストックへの手の入れ方を工夫することで大きな需要を掘り起こすことがまだまだ可能であること、REITやその他各種の手段を整備して大小の投資家に働きかけることで社会資本整備のための資金調達を活発化させる余地はまだあることも感じられたシンポジウムでした。

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